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30年×ICUHS生=∞(無限大)! ICUHS元校長 桑ヶ谷森男(くわがやもりお)さん

vol.02 前編 多様な価値観を受け容れ、お互いに成長する。30年変わらないICU高校の魅力。

− では最初に、桑ヶ谷先生のご経歴と、30年を迎えたICU高校への想いをお話しいただきたいと思います。

桑ヶ谷 僕はICUの大学の1期生で、1957年に卒業してから浦和高等学校と聖学院とで20年ぐらい教師をやりました。で、42歳の時かな、1977年にここの学校の準備をやってくれということで、前の学校を辞めて1年間準備に携わり、1978年にICU高校が開校になったわけですよね。
開校から14年間教頭をして、残りの10年、校長をやりましたので、準備の1年間を入れれば25年ぐらい、この学校とかかわっているわけ。
25年って長いから、いろんな出来事がありました。まず、いろいろな生徒がいて楽しかったし、こっちが何かしようとすれば生徒が反応してくれるし。そういう点では、いわゆる徒労感、むなしいという思いがないんだよね。やったことに応えてくれるからこそ、25年間、教育に疲れるとかやつれるということがなく、ずっと高揚感を持ってやってこられた。それは生徒も同じだと思うんですけど、僕はこの学校の教師になれて本当に幸せでした。ICU高校を誇りに思っています。

− ICU高校は、実は文部省(※1977年当時)の要請を受けて出来た初めての私立高校なんですよね?

桑ヶ谷 そうですね。1976年に、国で帰国生徒を受け入れることを主な目的とする高等学校を設立する、という答申が出たんです。で、77年に国家予算がつき、準備をして、78年に開校したんです。最初の一期生はたくさん応募者がいまして、一般生は80人のところに1450名ぐらい来たんですよ。
その一般生たちはもちろん優秀だったけど、帰国生も非常に個性的で迫力があったね。よく海外から帰ってくる人を適応させる教育というけれど、ここでは教師や一般生が適応される教育(笑)。だから、先生も変えられたわけ。それがいいんですよ、ICU高校は。ほかの学校は、自分たちは変わらないで生徒だけを何とか変えよう、適応させようとするでしょ。共に変えるというか、お互いに教育されるというか、双方向性のお互いにmutualな関係が非常にうまくいったと思います。これはちょっと、日本のほかの高等学校にない、ICU高校のいいことの1つだね。

石川(生徒) 帰国生が入って先生が変わられたというのは、どのようにですか?

桑ヶ谷 うん。そこ、ポイントだよね。例えば、今までの教育だと、教壇に立って一方的に講義をする。一方向性なんだよね、授業も。だけど、ここでは生徒の背景を考えないと、授業が上滑りになっちゃうわけですよ。
海外にいた生徒は、自分で勉強しなくてはいけないというのを身に付けているし、問題意識を持って自分で何を勉強するかということも発見して、調べて、プレゼンテーションまで持っていかなきゃいけないというような学習スタイルなんかも、やっぱり大切なわけでしょ。そういうのはあまり、日本の高等学校教育になかったわけね。受験勉強主義で。そういう点で、先生も変わったし、一般生のお友達も影響を受けたんじゃないのかな。1つの例ですけど。
あと、マナーなんかでも、例えば、何か注意した時にじっと見詰められると、日本の教師だったら昔は「なに反抗的な目をしてるんだ」と思うわけじゃない。ところが海外では、注意されたときは相手の目を見詰めるわけでしょ。そんなこと一つ一つでも習慣が違う。だから、よく相手のことを考えないとやっていけないわけよ。背景がそれぞれ違うからね。
帰国生徒が3分の2、その3分の2が毎年三十数カ国。通算すれば百カ国になんなんとする。そういう学校だったら、先生もお友達同士も他者を理解するということ、多様な価値観を認めることを前提にして、お互い変わっていくし、寛容でなきゃいけないしね。それが僕はいいことだなと思っていますね。

− 20年間、いわゆる普通の日本の学校で教えておられて、ICU高校を設立された。そこにはかなりのギャップがあったと思うんですけれども。例えばルール一つ決めるのでも。

桑ヶ谷 そうですね。一つの例を挙げれば、前の学校だと授業が始まる前に「起立、礼」とやった。ところが、ICU高校は国語とか数学とか英語なんかは少人数でやるから、ないほうが自然で、「起立、礼」をやめたんです。形から入るのでなく、むしろ教育の中身で自然に、生徒がreadinessというか、勉強する気で来ることが大切だし、先生もそういうことで授業に対し緊張感を持っていればいい。形式よりも中身だよね。
服装なんかでも、制服とか細かいルールを作っちゃうと、ルールのここがおかしいとか、どうだこうだとつまらないことに時間を取っちゃうじゃない。そんなことより、先生と生徒はもっと大切な話をしたほうがいい。だから、生徒を信頼して、制服をやめて自然な美しさを保ちましょうという風に変わったんです。
ICU高校の文化というのは、そういう一つ一つの実践、生徒と先生や生徒同士の出会いのなかで生まれて来たんですよね。大体は初期に形成されたけれども、30年積み重なってきたのだと思っています。

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