スペシャルインタビュー Special Interview

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アクティブに、モノと出会う 京都国立博物館主任研究員 永島 明子(ながしまめいこ)さん ICUHS10期生

vol.03 前編 日本の美術をもっと伝えたい!あえてメジャーでない蒔絵の専門に。

− では、まず自己紹介から。

永島 私は、ICU高校の10期生です。ここにいた時はダンス部とロック部に入っていて、バンドを3個か4個掛け持ちしてドラムスをやっていました。その時あった選択授業で音楽を取って、初めてフルートをやったりもしていました。授業のこともいろいろ楽しい思い出があるけど、寝ていた思い出もあります(笑)。どうぞよろしく。

岩崎(生徒) 岩崎です。今、3年生です。私は今、海に興味があって、海のごみ問題など環境の研究を、大学に入ってしたいと思っています。

山岸(生徒) 山岸と申します。私も同じく3年生で、美術とか現代アートにすごく興味があって、最近は、描くアーティストのほうじゃなくてキュレーターとか学芸員とか、そういう仕事にも興味を持っています。

小南(生徒) 3年の小南と申します。茨城県にある自然博物館で、学芸員の手伝いみたいなことをしているんですが、学芸員というのはどういう仕事なのか興味があって、ぜひ今日は、いろいろと聞きたいと思っています。

山岸(生徒) 永島さんは「蒔絵」の専門と伺っていますが、蒔絵ってそんなに私たちの間ではメジャーではないですよね。そもそもなぜ、あえて蒔絵を専門に?

永島 それは、メジャーじゃなかったからなのね。もともと私は西洋美術を勉強していて、日本のことをあまり知らなかった。それが、ここの大学、ICUの3年生の時に、交換留学でイギリスに行ったときのこと。音楽の授業で、「何とかイズムを比較しましょう」みたいな授業があって。「絵画ではジャポニズムというのがありますけれども、音楽でもそういった動きがあったんでしょうか。万博でいろんな音楽が入ってきて、その音階とかリズムの影響とか、あったんでしょうか?」と質問したら、「何言ってるの、この子」みたいで全然通じなくて…。図書館に行くと、ちゃんと『Japonism』という大きな本が置いてあるのに、みんな興味がなくて知らない。
「日本の美術ってこうなんだよ」と説明したかったんだけど、自分が知らなくて説明もできなかったのね。それで、日本のことをもっと知りたい、勉強しようと、最初に思いました。
日本に帰ってきて、はじめは木製品の勉強をしていました。それがなんで蒔絵になったかと言うと、ヨーロッパの美術館で日本の美術品が展示されているところへ行った時、蒔絵が一番情報が少なくて、一番理解されていない感じがしたから。もう1つは、ICUの大学院から京都の大学院へ行く時に、木製品を勉強したいということで考えたら、蒔絵の先生が一番近かったから。
自分もよく知らないし、木製品でもあるし、勉強したいなと思って選んだのが蒔絵だったの。そのときどきに自分が興味を持って、たまたまそうなった。成り行きとも言えますね。

小南(生徒) 小さいころから、絵とか芸術に興味がある人だったんですか?

永島 うん、そうだったみたい。私、ここは一般生で入っているんだけど、隠れ帰国なのね。

山岸(生徒) 私も隠れです。

永島 まだ生きているんだ、その言葉(笑)。3年間フランスにいたとき、パリにいたんだけど、日本から父の仕事の関係で来たお客さんをルーヴルやヴェルサイユに案内したりというのは母親の仕事でもあったのね。で、休みの日などは子どもを放っておくわけにいかないから、多分ついでだったと思うんだけど、「見てなさい」みたいな感じで、1日ルーヴルで過ごすことがよくあって。そういう時に、私は三姉妹なんだけど、その中で一番、美術品をずっと飽きずに見ている子どもだったと、親から聞きました。好きだったみたい、子どもの時から。

岩崎(生徒) 永島さんが今行っているお仕事を簡単に説明してください。

永島 国立の博物館の研究員という肩書きで、でも、やっている仕事は学芸員です。一番基本になるのは、平常展示と呼んでいる博物館のパーマネント・コレクションの部分です。今たまたま建物の建て替えをしていて、そこが閉鎖中なんだけれども、私は漆を担当していて、漆だけを展示している部屋が1つあって、そこを任されているのね。
漆は出しっぱなしにすると傷んじゃうので、大体、われわれの所では45日ぐらいで展示替えをしています。年に8本ぐらいの平常展示を考えて、展示をして解説を付けて、というのが基本の仕事なの。
でも、その仕事をするには、日ごろから漆のことを勉強したり、調査といって、よそのコレクションを見に行ったり。個人で蒔絵のコレクションを持っている人が、「見てください」と持ってこられたときに、いいものだったらお願いして預けていただいたり…。
そういう、漆の作品の展示にかかわる仕事がメインです。

岩崎(生徒) 博物館のお客さんはどんな人が多いですか?

永島 展覧会によるんだけども、平常展示館が開いていた時に多かったのは、修学旅行生。京都は観光地だから観光客の人がすごく多い。あとは年配の方ね。定年でお仕事をお辞めになったおじさま方やお茶をたしなまれるおばさま方。歴史や、お茶の世界で使う掛け軸とか、お棗とか、お茶碗とか、そういうものに興味があって、時間的にも経済的にも余裕のある人たちが多いかな。

岩崎(生徒) 高校生は?

永島 少ないです、残念なことに。本当は、高校生や大学生がもっといっぱい来てくれたらいいと思うんだけど、なかなかね。 若い人にアピールするテーマっていうのもあるのよね。若沖とか、瀟白とか、河鍋暁斎なんて聞いたことないかもしれないけど、江戸時代の画家で、割と漫画に近いような絵を描くとか、ぱっと見、分かりやすい絵を描く。外国受けするような日本の絵、平面的で、派手で、テーマも動きも面白い。色の使い方もちょっと奇抜な感じ。そういうのをやると、若い人の間でも、2chとかでも話題になって、人がいっぱい来たりするんだけど。
どうやったら若い人がいっぱい来るかというのは、どの博物館もきっと一番悩んでいるところだと思う。

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