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ICU高校に「宇宙」人来襲!? 物理学者 村山 斉(むらやま ひとし)さん ICUHS2期生

vol.01 前編−2/2

− IPMU(数物連携宇宙研究機構)の機構長になった経緯は?

村山 15年後、今度は東大でそういう分野の研究所を創りたいという話が出てきて、その機構長をやってくれと言われて、もちろん断ったんですけど……

鈴木(生徒) 断った!もちろん(笑)。

村山 自分の研究が楽しくてやっているので、「○○長」がやりたかったわけじゃない。そうしたら「若いし、日本のことがわかっていないし、世の役に立たなさそうな研究だし、どうせ通らないから出してくださいよ」と説得された(笑)。ところが通っちゃったんです。だから「ハメられた」と言っているんですけど。その結果、機構長をしています。ほかの人がいい研究ができるような環境を作るための仕事です。

櫻井(生徒) 昔だったら、ニュートンとかアインシュタインみたいな1人のすごい人によって、すごい展開することがあったんですが、今はもう、組織として研究を進めなくちゃ無理ですか?

村山 ほとんどの今の研究は共同研究ですね。数学ですら、だんだんそうなってきている。理由ははっきりしていて、人と話すと、頭がスッキリするんですよ。純粋にそれだと思います。どうやったら早く答が出てくるかと言うと、悶々と思い悩んでいることを話してみると、自分が何を悩んでいるか説明しなきゃいけないから、話しているうちに答が分かったりするわけ。ほんとそうですよ。人と話をすると、自分の考えがはっきりするというのが、まず1つ。  それに加えて、話された相手の人が、「じゃあ、これはどう?」という別のアイデア、別の見方を持ってきてくれるというのが2つ目。3つ目は、人と一緒にやっていると楽しいという。それでもって、やっぱり共同研究をやったほうがもっと速く進むんですね。それが一番大きな理由だと思います。

− 仕事の内容について教えてください。

村山 機構長としてのミッションは、今までの大学のシステムが硬直的でうまく働かないから、もっと新しいシステムを作りなさい、今までやってきたのと違うことをやれというものです。始めてみると、日本的に育たなかったというのが結構良かったりします。例えば、まず「日本語分かりません」と言えるわけです。お上の難しい言葉ってたくさんあって、ほんとに分からないことがある。運営費交付金って聞いたことあります?

− 聞いたことないです。

村山 大学の人の話を聞いていると、そういう言葉がいっぱい出てくるわけ。それを、「何ですか?」と言うと、結構、向こうも答えられないわけね。だから聞いていくと、これは実はよく分からないことなんだということが分かる。じゃあ、これはもしかしたら、こういうふうに変えられるかもしれないということが、分かってくるじゃない。分からないというのがいいことだということに気が付いて、それから、日本語しゃべれない少年になって、分からないことはどんどん聞くようにしています。それから、「アメリカでこうやってきた」と言ってしまうと、実はそういうふうにできるということが分かって。だから、そういう経験で育ったというのが、今、役に立っているみたいですね。

安部(生徒) このあいだ新聞に、国からの科学への支援金が配分されるという記事に村山さんの写真が載っていたんですけど、それは何に使うのですか?

村山 何に使うかというアイデアはすごくはっきりしています。すばる望遠鏡という、日本の国立天文台が持っている望遠鏡がハワイのマウナ・ケアという4千何百メートルの火山の上にあるんです。これハップル望遠鏡に比べて千倍ぐらいいっぺんに見られるんです。僕らの研究は宇宙を理解したいので、1個1個の銀河にはあまり興味がない。1個1個の銀河の個性は個性で楽しいんだけれども、宇宙全体のことを知るには、逆に邪魔になる。そこで、いっぺんにたくさんデータが取れる望遠鏡じゃなきゃできない。それで、すばる望遠鏡に新しい装置を付ける。最初に付けるのは、巨大なデジカメでピクセルの数が9億画素。で、重さ4トン。

安部(生徒) おー!

村山 しかも、何十億年先の銀河の写真を撮る時、地球が回っているからずっと動いてなきゃいけない。手ぶれしたらアウトですよね。どのくらい手振れしてはいけないかと言うと、東京都内から富士山頂を見て、そこからピンポンボールをコロコロと転がしたときに、それにビターッと追って、絶対ピンポンボールを逃さないぐらい、ちゃんと制御できなきゃいけない。

鈴木(生徒) それ、できるの?

村山 できる。そういう制御装置を付ける。それから、遠くの銀河から来た光は、いろんな情報を持っているんだけど、光のスペクトルをちゃんと測ると、銀河がどっち向きにどのくらい運動しているかとか、どのくらい遠いかとか、よく分かるんですね。いっぺんに何千個かぐらいの銀河から来る光を選んで、必要な部分だけ取ってきて、そのスペクトルを調べるということをしなきゃいけない。そういう機械を造ろうとしているんですけど。

鈴木(生徒) それは何十億円で?

村山 提案は90億円です。

(一同絶句)

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