スペシャルインタビュー Special Interview

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ICU高校に「宇宙」人来襲!? 物理学者 村山 斉(むらやま ひとし)さん ICUHS 2期生

vol.01 前編−1/2 そのままの自分でいてかまわない。ICU高校の自由な校風が嬉しかった。

− まず初めに、簡単にご自身の紹介をお願いします。

村山 生まれたのは1964年だから、この学校では2期生です。ドイツがまだ統一されてなかった頃の西ドイツのデュッセルドルフに4年間住んで、できたばかりの日本人学校に通っていました。皆さん、帰国ですか?

安部(生徒) 僕は一般です。

遠藤(生徒) 一般。

村山(生徒) 一般。

櫻井(生徒) 帰国。

鈴木(生徒) 一般。

村山 ほとんど一般だ。一般の人から見ると、帰国の人って変でしょ?

安部(生徒) はい。

村山 例えば、デュッセルドルフに新しく日本の中学から来た人が「日本では先輩に敬語を使わなきゃいけない」とか言うと、僕なんか「そんなことあるわけないじゃないか」と笑っていたんですよ。それぐらい感覚がずれていたわけ。ICUは周りに帰国子女が3分の2以上いたので、全然違和感なかった。

− 当時の雰囲気はどんな感じだったんですか?

村山 当時は先生もほとんどみんな20代だからすごく若い雰囲気で。ラグビー部だったんですけど、グランドもできてなかったから、奥の方のゴルフ場の成れの果てみたいな原っぱで練習して、転ぶとゴルフボールが落っこちていて、頭を打って痛い(笑)。そういう感じだった。

− 印象に残る授業は?

村山 1つ挙げるとしたら、「100ページの論文を書け」と言った国語の星野先生。1年間いろんな本を読んで、その中からいわば自分の人生がかかっているような問題を取り上げて論文を書きなさいという授業。僕が選んだのは坂口安吾の『堕落論』という自分をとことん堕落させることによって自分を再生させるというような思想が書いてある本でした。授業もすごく変わっていて、基本的に議論している。先生が前に立って何か教わるのじゃなくて、とにかく自分の考えを述べるという授業で、しかもそれが最後、論文にならなきゃいけないので、非常にプレッシャーは高かったけど、ほんとに思い出に残っていますね。

−特別な出会いはありましたか?

村山 滝川先生という物理の先生が、授業を必ず実験室でやるんだけど、一番最初に何をやれと言われたかとい言うと、「実験室のテーブルの上に、水をちょっと落としなさい」と。水を落とすとクルクルと丸くなるでしょ、水滴になって。「これを引っ張ってみろ」と言うと、ピンを付けて引っ張ると、前後、ズルズル付いてくるじゃない。「何で付くいてくるんですか」と。何で付いてくると思います?

鈴木(生徒) 表面張力?

村山 表面張力も関係あるけど、基本的に分子間力ですよね。それを議論させるわけ。しばらく、何だかんだみんなが言ったあとで、答が3つぐらい出てきて、「この答の人」とか、みんな手を挙げた上で、ほんとの答を教えてくれる。とにかく問題だけ与えられて理由は自分で考えろ、みたいな感じ。だから、受験にはほんとに役に立たない。最初に模試で取った物理の点数が46点でした。それで物理学科に行ったので、それも面白かったんだけれども、自分で考えることをすごくやらせてくれる先生だったわけね。滝川先生はいまもガリレオ工房という団体をつくって、答を教えるんじゃなくて、考える力を育てる理科教育のしくみづくりに取り組んでいます。僕も参加しています。

− ほかにも印象的だったことは?

村山 先生たちが若かったということもあると思うけれども、すごく自由にやらせてくれましたね。しょっちゅう理科の先生の部屋に入り浸っていて、ある時机に『化学実験べからず集』という本を見つけた。「危ないから、こういうことをやってはいけません」という本なのね。

鈴木(生徒) やりたい(笑)。

村山 見るとすごくドラマチックな写真があって、どこかの学校の校舎の前のプールにナトリウムを1カケラ投げ込むと、反応した勢いで、水柱が4階ぐらいまでバーッと上がるという写真が出ているわけ。それを見て感激して先生のとこへ行って、「これ、やりたい」って(笑)。そうしたら「じゃあ、ナトリウムを作ってみろ」と言われた。結局ナトリウムづくりでルツボに20個くらい穴をあけたんだけど、そういうことを許容してくれる雰囲気だったのね。すごく楽しかったです。とにかく、やりたいことは何でもやっていいという。今でもそうじゃないですか、ここは、きっと。

− そうだと思います。

村山 「日本人はこうでなきゃいけない」という型みたいなのが全然なくて、「自分は自分でいていい」という雰囲気があって、それがすごくうれしかった。実は、日本に対するカルチャーショックを覚えたのは大学に入ってからなんです。ICU高校は帰国生が日本にadjustするための学校だということになっていますが、多分、失敗していますよ(笑)。私は全然adjustしていない。

− 一般生の方が帰国生みたいになれる学校。

村山 そう。そういう感じだね。

>> 前編(2)へつづく

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