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ICU高校に「宇宙」人来襲!? 物理学者 村山 斉(むらやま ひとし)さん ICUHS2期生

vol.01 後編−2/2

安部(生徒) 宇宙の話って、分かってないことだけでもすごくいっぱいあって、そこを明らかにしていこうとするときに、すごく気の遠くなるような作業じゃないですか。そこで続いていくというのは、すごいことだと思うんですけど。

村山 でも、すでに分かっていることを全部知らなかったら研究できない、というわけじゃないんです。確かに、大学院に入ってくる学生も、今まで分かったことを全部修得して、はじめて次のことができると誤解しているけど、そんなことないです。まず始めて、自分で何かやったという自信を付けて、徐々に自分の地平線を広げていけばいい。全部分からないと何もできないと思ったら、世界に学者は1人もいないです。むしろ、自分の知っていることの範囲からできるものを見つけられる人は伸びる。そうこうするうち、「今度はこれをやりたい」と思ったら、改めて勉強すればいい。研究者はみんなそうだと思います。

村山(生徒) 最先端の科学を研究するには、たくさんお金もかかるし、いろいろ大変だと思うんですけど、そこまでして科学に求めるものって何ですか?

村山 単に分かりたいということだけなんじゃないでしょうか。科学って、もともと歴史的には、別に役に立つと思ってやっていたわけじゃないでしょ。ニュートンがリンゴから落ちる木を見て、これが分かれば人工衛星を飛ばせるんだと思ったわけじゃない。

ただ、それはすごくいい質問で、国民の血税をもらって研究をやらせてもらっているわけだから、すごく大事な問題です。いま一般の人向けにいろんな発信をしていきたいと思っている理由はまさにそれで、せっかく皆さんのお金でやらせてもらった研究なので、分かったことはできるだけちゃんとお返ししたい。その価値を認めてくれれば、これからのこともサポートしてもらえる、というのが、今の時代のやり方何じゃないかなと、個人的には思っています。

村山(生徒) 小学生とか中学生のころに、何かに触発されたことってありました?

村山 父親が物理を勉強していたので、「これ、どうして?」って聞くと、それなりに答えてくれたのが、多分インパクトがあったんじゃないかと思う。質問には答えがあるんだと。そういうことから自分で考えるのが好きになったんじゃないかな。

あと、科学の本を読むのが好きだったけど、何が好きだったかと言うとドラマ。うまくいかなかったけど決闘して死んだ数学者の話とか。研究者の社会は、「あいつには勝つぞ」とか、「こいつと一緒にやりたい」とか、「先を越された」とか、そういうことで毎日進んでいくので結構そういうドラマありますよ。負けたこともあるし、勝ったこともあるし。

− それはどんなドラマだったんですか。

村山 『ワープする宇宙』のリサ・ランドールっているじゃないですか。ある時、僕がその日に出た論文のリストを見ていると、リサの論文が出ているわけ。それは僕がやっていた研究とほとんど同じ内容なの。当時、ヨーロッパの人2人と、アメリカ東海岸の人1人と僕の4人で研究していて、答えはもう出ていたんだけど、みんな別のことで忙しくなって、うっちゃって、論文もだいぶ書いていたんだけど、出してなかった。その日の論文のリストが出るのは僕がいるアメリカ西海岸の夜で、もうこっちは寝なきゃいけない。幸い、ヨーロッパの2人はこれから起きるので、「おい、こういう論文が出てるぞ。何とかしなきゃ」「よし、ともかく今日中に仕上げよう」ということになって2人が書き続けて、疲れたころに今度は東海岸の彼が書き続ける。そこまでやった論文が一番遅い西海岸の僕の所に来て、僕が投稿したわけ。1日違いで出たから、一応、彼らも無視できなかった。

− やめたくなったことはありませんか?

村山 あります、何度も。そういう時は結構、人の出会いに救われていますね。大学院の研究室に入って、やりたいことが全然行われていなかったということが分かった時に、ほんとにもうやめようと思ったんです。その状況に全然別の研究室の先生が気づいてくれて、集中講義に私のやりたいようなことをやっている人を連れてきてくれたんです。だから、修士2年間の間2日間だけいい出会いがあって、もうちょっとやってみようかと考えを変えたんですね。今までの自分の歴史を見ると、「やめようかな」と思った時に、何か、誰かと出会って、考え方が変わったり励まされたりして、それでまた元気になって続いたという感じがします。

− 今日はどうもありがとうございました。

全員 ありがとうございました。

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Profile村山 斉(むらやま ひとし)物理学者

村山斉さん

東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長兼カリフォルニア大学バークレイ校教授。物理学者。専門は素粒子理論。研究分野は超対称性理論、ニュートリノ。1964年生まれ。1982年国際基督教大学高等学校卒業。1986年東京大学理学部物理学科卒業。
1991年東京大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了、理学博士号を取得。1993年渡米し、2000年カリフォルニア大学バークレイ校教授就任。2002年西宮湯川記念賞受賞。2004年カリフォルニア大学バークレイ校MacAdams冠教授。2007年より現職。

 

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