スペシャルインタビュー Special Interview

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アクティブに、モノと出会う 京都国立博物館主任研究員 永島 明子(ながしまめいこ)さん ICUHS10期生

vol.03 後編 人も美術品も、出会わなければ損!多様な価値観に出会えることを大切に。

岩崎(生徒) ICU高校で一番の思い出は何ですか。

永島 ダンス部だったので、朝昼晩踊っていたんだよね。それがすごく楽しくて。朝、授業前に来て、ひと踊りするでしょ。そうすると当然眠いじゃない。だから午前中はうとうとしていて。3時間目ぐらいになると、昼練が気になって早弁するじゃない。腹ごなしに4時間目寝て、踊りに行って、午後寝て、みたいな(笑)。

岩崎(生徒) すてき(笑)。

永島 あと、ロック部のコンサートがあって。学校がライブハウスみたいになって、にぎやかで楽しかった。それから、バイブルキャンプとか、結構いろんな行事に参加して、生物の何だったかな…三宅島に連れていっていただいて。噴火の跡に、そこから植物、こけ類とかがちょっとずつ生えて、だんだん森が再生していく過程を観察しましょうという。そういうのも楽しくて。スイカ割りとかもしたな、夏だったから。あと、スキー教室も行ったし。

山岸(生徒) なぜ大学は、そのままICUに進学しようと思ったんですか?

永島 その時は、姉がICUにいたからちょっと様子が分かっていたというのと、あと、まだ自分が何をしたいか、はっきり分からなかったし、決めてしまえるほどモノを知らないという自覚はあったので、もうちょっといろんなことを知ってから専攻を決めたいと思って、この大学を選びました。

小南(生徒) 高校や大学で、こういうことをやっていたらよかったと後から思ったことはありますか?

永島 古文書(笑)。日本の古い文字を読めたらすごく有利なんだけどね、日本のことを研究しようと思ったら。大学にいた時に、市民講座で、自分の地域の古文書を読みましょうというクラスがあって、それには通ったんだけど、変体仮名とかやっぱり読めないのよね。漢文、古文と古文書。これはもっと教われたらよかったなと思っています。
それから、これは、就職するまで気付かなかったんだけど、学芸員の仕事は文章を書く仕事が非常に多いんです。作文能力。これをもっと訓練しておけばよかったと思いましたね。他人が分かるように、きちんと決められた文字数の中で魅力的に書くという、その訓練はほんとに必要。小論文だったり、プレゼンテーションだったり。
あとは、コミュニケーション能力。いろんな人と会って話をするので、やっぱり、自分が思っていることを相手に失礼のないようにきちんと伝えられないとね。それも、相手によって伝え方って違うじゃない。アメリカの人とかだと、ざっくばらんに言えたほうが向こうも安心するという面もあるし、日本の、例えば京都の個人コレクターとかだったりすると、「何をおっしゃいますやら」とか言われちゃったりして(笑)。それぞれの文化があるから、そのお作法を察知してきちんと話ができるということは、すごく大事なんだなって、日ごろ感じます。職場内の上下関係とかもね。それは学芸員とかにかかわらず、難しいけど、大事だと思います。

岩崎(生徒) 永島さんにとって、アートとはどんなものですか? アートというか、今されている、日本の古美術品とは?

永島 古美術品は、ほんとは生活の中の品なんだよね。ほんとはね。今、ガラス越しでライト浴びているけど。本当は、それを使った人たちの生活の中にあったものなのね。だから、それを見ていると、いろんな情報が詰まっているの。そういう過去の非常に豊かな世界を、私たちに教えてくれる、伝えてくれるのが古美術品。
あとは、誰でも作れるものじゃなくて、子どもの時から訓練を受けた人たちが作っているから、すごく完成度が高い。形だとか色だとか、ほんとにスパーンと来るものというのは、きれいで気持がいい。ほんとに、誰が何と言おうとすばらしいという、そういうものかな。

岩崎(生徒) すごいです。

永島 そんなにないけどね、すごいものって。でも、「はーっ」って、息が詰まるというか。それを伝えたいのに、実際みんなにはガラス越しにしか見せられない。だからなるべく伝わるように、説明を書いたり、ライトを工夫したり、展示台を工夫したり、いろいろするんだけど。でも本で見るよりは、会場で見てもらったほうが、そのもの自体の存在感が伝わると思います。

岩崎(生徒) 今、美術館や博物館にあまり行かない高校生に、アピールというか、こういうのがあるから見にくるといいよ、みたいなメッセージがあったら聞きたいです。

永島 やっぱり、テレビとかインターネットとか写真では伝わらないものが必ずあるから、実物を見てほしい。モノの存在感というか、人もそうだけど、直接出会わないと分からないものって、あるんだよね。それは、出会わないと損なので、取りあえず足を運んで欲しいと思う。全部を一生懸命見なくていい。ぱーっと見て、1個でも気に入ったものがあれば、その日はすごく良かったという感じで。
例えば、この展覧会に出ている中で1個だけ家に持って帰っていいとしたらとか、誰かにプレゼントできるとしたらとか、そういう見方でもいいと思うんだけど。アクティブにモノと出会ってほしい。そうしたら多分、そのモノ自体に感激するということもあるし、何でそうなんだろうという疑問もわくと思うんだよね。
友だちとかでもそうでしょ。この人、どうしてこういう考え方するんだろうって、興味を持ったりすると思うんだけど、それもやっぱり、直接会ってみないと分からない。話してみないと分からない。そういう感じだと思います。なので、もったいないから。高校生無料とか割引もあったりするから、高校生のうちに行ったほうがいい(笑)。

− 最後に、ICUで学んでいる学生たちに、先輩から、あたたかい励ましプラス、メッセージをいただけたらなと思うのと、これから30年後のICU高校に、どんなふうになっていてもらいたいかという、未来へのビジョンも含めて、永島さんがお感じになられるところがあれば、ぜひ。

永島 何だろうな…高校3年間って、あっという間だと思うので、一瞬一瞬を思う存分楽しんでほしい。つらいこともきっとあると思うんだけど、それも含めて、一瞬一瞬を一生懸命生きてほしいと思います。
これから30年…。どうだろう。やっぱり、お互い、全然違うバックグラウンドを持っている人たちが集まっていて、それを当たり前のこととして一緒に生活できるというか、お互い何でも言い合える環境。これはずっと続いてほしいな。ICU高校の一番の特徴ってそこかなという感じがするんです。ほかの高校、行ってないから分からないけど、卒業してから思うに、お互いに違う文化で育っているということが、日本にあっては、認められている場所って少ないので。
多分、移民の多い国とかに行くと、そんなこと全然問題にならないんだけど、日本の社会って、そうではないので。ICU高校は、そういう、お互い違うところを認め合いながら好き勝手にいる場所としていつまでも続いてほしいなと思います。

− 長い時間、どうもありがとうございました。

全員ありがとうございました。

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Profile 永島 明子(ながしま めいこ) 京都国立博物館主任研究員

永島 明子さん

小学生の時に数年間フランスに在住。ICU高校の10期生。高校卒業後、1994年にICU教養学部人文科学科卒業、1996年同大学院比較文化研究科博士前期課程修了。京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了後博士課程退学。1999年より京都国立博物館に勤務。マリー=アントワネットの漆器コレクションをはじめ、ヨーロッパに伝わる蒔絵の調査研究に携わり、2008年には世界でもはじめての輸出漆器の大型展覧会を企画実現した。

 

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