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2001.12.19 えいれーねー 88号 「より賢く より逞しく」 校長 桑ヶ谷 森男

 Nさん、9月11日、ニューヨーク世界貿易センターに起こった出来事がテレビに映ったとき、『どうしてこんなことが.・・・』と、頭はなにも働らかず映像を見つめるだけでした。おそらくあなたも、目に映っていることと、それに筋道をつけて理解することとが、これほど切り離された感じをもったことはなかったのではないでしょうか。それから次々と情報が入ってきて、出来事の筋道が考えられるようになってきました。与えられた情報では、今回の民間人を巻き込む自爆テロを目論んだ中心人物と組織がアフガニスタンに潜んでいて、世界中にテロ実行グループを散開させているといいます。そして、その中心人物をかくまい、アフガニスタンを支配していたタリバンという勢力に対し、アメリカを主力とする軍事攻略が展開されています。
 Nさん、あなたたちは、ニューヨーク世界貿易センターの被害者の救出とその家族への支援に、そして、今度の軍事攻略により増え続けるアフガン難民にも目を向け、何かしなければと、直ちに行動を開始しました。まずは、支援の募金に取り組むことでした。アフガン難民への募金は、はじめ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のホームページに“緊急ファンド”を見つけ、その後NGOの日本国際親善厚生財団(JIFF)を通じた支援が一番効果的だと判断して、募金はJIFFに送られました。アメリカのテロ被災者支援に関しては、日本赤十字のホームページの『アメリカ赤十字社の救援活動』を詳しく読み、さらに直接アメリカ赤十字社のホームページでLiberty Disaster Fundの項を調べ、この基金が軍事行動をも前提とするものであり、9月11日の被災者支援にかぎられたものでないことを知りました。あなたたちは、軍事行動を前提とするものには協力できないとして、別の道を探ることにしたのですね。自分たちの心を被災者家族に伝えることが大切だという、あなたの考えに同感します。
 目的のためには手段を選ばないのが、テロです。今回の事件以後、わたしたちの生活の安全が、絶えず脅かされる状況にあることを意識させられました。私たちは、テロが再び起こらないことを求めています。今、テロとの戦いということで、アフガンの地に空爆が行われ、一般民衆にも被害者が出たり、難民が増え続けています。それは、テロに対する“目には目を、歯には歯を”の報復であり、目的のためには手段を選ばない対応に見えます。しかし、それはテロの根絶につながるとは思えません。テロを生み出す土壌を変えることにはならないからです。3年生が世界史の研究レポート、“タリバン”“イスラム原理主義”“パレスチナ問題”など一連の発表を昼休みに行い、全学年の関心をもった生徒で教室が一杯になりました。ここでも『どうしてこんなことが・・・』という問が、筋道を立てて追究されようとしています。
 Nさん、あなたたち生徒が見せてくれた救援募金活動や問題の本質を追究する姿勢に、今回の世界史的事件に真正面から向かい合い、“より賢く より逞しく”成長していく力を感じました。あなたもすでに気づいているように、テロ根絶に向けての戦いは、パレスチナ問題などにおいてどちらの民族も公平に扱われてきたか、貧しい国への援助が自立・繁栄の地盤づくりになっているか、こうしたテロを生み出す環境を変えていく運動です。一民族・国家の内側にも不公平があり、豊かな資本主義諸国と飢餓線上に苦しむ諸国との間にも不公平があり、世界は構造として、システムとして、不公平を再生産しているとしたら、テロ根絶の問題はわたしたちへの厳しい問いかけになっています。『どうしてこんなことが・・・』、あなたにも私にも、この問いは続いています。

 

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