あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。
わたしは既に世に勝っている。
- ヨハネによる福音書 第16章 33節 -
わたしたちは知っているのです、苦難は忍耐を、忍耐は練達を、
練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くこと
がありません。わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛
がわたしたちの心に注がれているからです。
- ローマの信徒への手紙 第5章 3~5節 -
卒業生の皆様、卒業おめでとうございます。御父母の皆様、私たち教職員一同、大切なお子様方の御卒業を心よりお祝い申し上げます。
3年前の入学式で新入生であった皆さんに、前校長の桑ヶ谷森男先生は次のような聖書のマタイによる福音書の言葉を贈りました。
疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。
休ませてあげよう。わたしは柔和で謙遜な者だから、わたしの
軛を負い、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたは安
らぎを得られる。わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽い
からである。
そして、「皆さんは、一人ひとり中身の違った、目に見えないリュックを背負っています。その中身は、楽しかったり苦しかったりした思い出であったり、自分だけが体験したこと、一所懸命努力して勉強したこと、夢や希望、そして自分でも気が付かないものまで詰まっています。」と仰いました。さらに、このICU高校で、そのリュックの中身を理解し、それを分け合える人たちに出会えるでしょう、そうなれば、一人ひとりが抱えている困難を乗り越える勇気が湧いてくるのです、と仰いました。
さまざまなバックグラウンドをもってICU高校に入学した皆さんは、あれから3年間どのような高校生活を送ってきたのでしょうか。私には、生き生きと楽しく充実した毎日を過ごしていた皆さんの姿が、いろいろな場面でcreativityを発揮し、活躍していた一人ひとりの顔が、目に浮かんできます。皆さんの「目に見えないリュック」の中身が、自分を理解してくれる友達や先生方に出会えて、豊かにふくらんでいることを信じたいと思います。
しかし、皆さん全員がこの卒業式に充実した満足な思いをもって臨んでいるのではないことも事実だと思います。せっかく夢と可能性をもってICU高校に入学したのに、苦しいことや悲しいことが多くて、思いどおりの高校生活を送れなかった人や、体調がすぐれずにやりたいことが十分に出来なかった人も皆さんのなかにいると思います。そのような人が一人でもいることは、本当に残念なことで、私たち教職員の力が足りなかったことも率直に認めなければならないと思います。今となりましてはその人たちがこの3年間の経験を少しでも活かして、将来実り多い人生を送ることが出来ますようにと祈ることしかできませんが、私たち教職員も、皆さんの後輩がICU高校でさらに充実した毎日を過ごすことができますように、努力していきたいと思います。
皆さんのこれからの人生には、さまざまな苦難が待ち受けています。世界の情勢や日本の状況を考えましても、単純に将来に夢を抱いて進んでいくことが困難な時代に皆さんは生きているのです。日本で初めて「死への準備教育」「死の哲学」を提唱した上智大学のアルフォンス・デーケン教授は、定年を迎えた最後の講義で次のように述べています。
「人生は旅であり、人間は大きなゴールに向かっている旅人とも言える。人生の旅は、ただ簡単にみんなが歩いている道をたどるのではなくて、勇気をもって右、あるいは左へ、生涯の転機をも選ばなければなりません。ときに、それは苦しい選択にもなるわけです。」
「勇気をもって」人生を歩んでいけば、どのような苦難が待ち受けていても乗り越えていける力が皆さんには備わっていると、私は確信しています。今日私が選んだ聖書の言葉は、「あなたがたは世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。私は既に世に勝っている。」と言っています。ICU高校はこのような信仰の上に立っている学校です。そこで学んだ皆さんには、その力が必ず備わっていると私は信じています。私が選んだもう一つの聖書の言葉をここで繰り返したいと思います。
わたしたちは知っているのです、苦難は忍耐を、忍耐は練達を、
練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くこと
がありません。わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛
がわたしたちの心に注がれているからです。
今日は、皆さんの新しい人生のスタート、commencementの日です。ICU高校を卒業して、皆さんはそれぞれの人生を歩んでいきます。目の前にあるやるべきことをしっかりやりながら、それぞれの夢にむかって、希望をもって、勇気をもって、力強く、一歩一歩進んでいってください。私たち教職員一同は、皆さんの人生が輝かしい豊かなものとなりますように、心からお祈りいたします。
卒業、おめでとうございます。