岸 克昭
37期
国際基督教大学教養学部1年
私はチリのインターも日本人学校も補習校もないような街に約8年間住んでいました。そのため、帰国するまでスペイン語でしか勉強をしたことはなかったのです。日本帰国後、日本語で授業を聞くことさえ難しかった私は、できるだけ帰国生が多い高校に進学を希望していました。そのなかでも帰国生受け入れのパイオニアであり、しかも上級スペイン語の授業がとれることからICU高校を選びました。
みなさんも経験したことがあると思いますが、慣れない文化、言語の中に飛び込むのはとても不安、しかし同じぐらいワクワクを伴っています。そうして入学したICU高校では苦労の連続でした。入学当初は漢字を読むことすら難しく、授業についていくので精一杯でした。レベルで分けられている古典や現代文のクラスは当然一番下、そのなかでも最底辺をぶっちぎりで爆走していました。おかげで僕専用の補習クラスを用意されたほどです。しかし、レベル分けされているクラスでは私と同じようなバックグラウンドを持っている人が多く、日本語ができないコンプレックスというのはICU高校では共有できるものであったのが、私は嬉しかったです。
ICU高校でHR委員や学校祭企画責任者などのポストを通じて、私は一つのことを感じました。ありきたりですが、やはり言語とはコミュニケーションツールでしかなく、大事なのはスピーカーとリスナーであるということです。お互いが帰国生で、みんなある程度日本語が下手だからこそ、ハイ生はお互いを理解する努力を怠らないのです。だから、こんな私でもみんなが支えてくれて、まがりなりにもHR委員を約1年間勤めあげることができたと思っています。
そんな私を変えてくれたICU高校は、カオティックで毎日が充実していて、とても楽しいです。多少の頭痛や風邪などで休むのはもったいない、と思っていました。それは他校と違って、学校祭や体育祭だけがイベントではなく、ICU高校では、かけがえのない毎日がイベントだからです。キリスト教概論や家庭科のような一見つまらなそうな科目でも、愛とはなんなのか話し合ったり、クラスでピザを作ったり、楽しいことが盛りだくさんです。先生にドッキリを仕掛けたり、小テストでクラスメイトと競ったり、おそらくハイ生は、幼稚園児並みに毎日を楽しんでいます。このような日々を送った多くの卒業生は、ICU高校でなにが楽しかったのではなく、ICUでの高校生活そのものが最高であった、と言います。
ICU高校の良いところは、そこだけではありません。今話を聞いているみなさんがいろんなところから帰国してきたように、ハイ生もいろんな国からの帰国生が多いのです。初対面で名前を聞くよりもさきに、どこ帰国か聞けるのなんてICU高校だけです。また数少ない一般生との交流も、僕たち帰国生にとっては非常に新鮮な出会いです。これは僕の尊敬する先生の言葉ですが、「ICU高校とは空港なんです。一般生は外に向かって離陸し、帰国生は内に向かって着陸するんです」。普通の高校に入学した帰国生の多くは、言うならばハードランディングすることになります。つまりカルチャーショックや、慣れない環境に戸惑い、なかなかそこで自分の居場所を作ることができません。しかし、ICU高校で一般生と一緒に過ごすことによって、帰国生としての自分の位置を確立することができます。私は日本の中学になじむことはできませんでした。みなさんも今もしくはこれから感じることがあるでしょう。しかし、その悩みはICU高校では絶対に起きない、と私は約束します。私たちは帰国生です。日本人でも外国人でもありません。どっちつかずで宙ぶらりんです。帰国生はアイデンティティの確立が難しい、とよく言われがちです。しかし、ここではそんなことありません。ICU高校では帰国生が主役です。だからDon't be shy!
最後に中学生のみなさんに一言送ります。高校入学から卒業まで三年間です。長いように思われがちだけど、すぐ終わりが来ます。しかし、何もせずに終わらすには退屈でもったいないです。そのため皆さんに三年間かけて没頭できるものに出会ってほしいのです。それはサッカー、スペイン語、バイオリン、なんでもかまいません。そして悔いのない充実した最初で最後の高校生活を過ごしてほしいのです。その何かをみつけて、誰にも邪魔や馬鹿(ばか)にされずにできる最適な場所が、ICU高校だと思います。日本には「出る杭(くい)は打たれる」という諺(ことわざ)があります。そのため、多くの日本人はどれだけ素晴らしい才能を持っていても隠そうとしています。しかしICU高校では、そのようなことは起こりません。これは私の実体験より皆さんに誓えます。人生で一度しかない高校生活を、ぜひICU高校に入学して最高のものにしてください。
(2017年 学校説明会スピーチより)
国際基督教教大学高等学校OB戦にて