日下部 元美
30期
国際基督教大学教養学部
(株)毎日新聞社北海道報道部記者
小学校3~5年にかけてアメリカ合衆国カリフォルニア州に住んでいました。帰国すると勉強についていけず、逆カルチャーショックにもあい、周りの環境に溶け込もうとすればするほど自信がなくなっていきました。自分の意見を言うことが苦手になり、対人関係についてもどこかビクビクしている所がありました。ですがICU高校の自由な校風や個性を大切にする環境下で、少しずつ自信を取り戻していき、もっと自分を表現できるようになりたい、と思うようにもなりました。
現在は毎日新聞社の記者として働いています。問題を提起し自分の意見を表明していく記者になるとは、中学時代の自分からは全く想像できません。入社以降、警察や政治などの担当を持ちながら、障害者や性的少数者など社会的マイノリティーが抱える問題の取材を続けています。2018年には旧優生保護法下での障害者への強制不妊手術問題の取材班に入りました。現代にはびこる優生思想を見つめながら、記事や本の出版に向けて執筆しています。
実は、強制不妊手術の問題を一番最初に知ったのは、ICU高校の倫理の授業でした。あまりのショックに、家に帰ってすぐ母親に話した記憶があります。その後、この問題が心のどこかにずっと残っていて、大学では優生思想や差別問題に関心を持ち、精神医学の歴史などをテーマに研究しました。記者になり、強制不妊手術の問題を高校時代に学んだことがあると上司に話すと、「ええ? どこの高校? 普通は学ばないんだ」と驚かれる経験をしました。
倫理に限らず英語、世界史、文学などの授業も、簡単には答えが出ない社会の問題に生徒を向き合わせ、そして考えさせる内容が多かったと感じます。私は頭の回転が速くないことがコンプレックスでしたが、これと言い切れずのらりくらりとさまよう自分の考え方を、「それでもいいんだ」と肯定してくれたのも、またICU高校の授業でした。生徒も自由に、時に自由すぎるくらいに生活しながらも、真面目に議論しあう雰囲気がありました。
大学ではすぐに歴史学を選んだわけではなく、国際関係学や政治学、人類学にも関心を持った時期もありました。社会のあらゆることに対する関心の種の多くは、ICU高校時代にまかれていたと感じます。種は知らない内に芽を出し育っていて、振り返ったら蔦のように連なっていました。皆さんも学校生活を楽しみながら、自分の関心事を大事にして、たくさん学んでください。
(2018年)
毎日新聞社北海道報道部にて