2025年2月 一覧

202525
スクールライフby R.S.

トビタテ!留学JAPAN:留学報告

文部科学省が主導する官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」日本代表プログラム」で昨年度代表に選出され、「Life with Refugees〜移民・難民と共存する社会を目指して〜」と題してドイツとデンマークで移民をテーマに探究してきた44期生の生徒Sさんの留学報告です。

現地での活動報告のレポートを抜粋してお届けします。


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2023年7月 ドイツ ベルリン 

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難民支援施設として使用されているFlughafen Tempelhof、Tegel AirportやAnkunftszentrumを訪問した。Flughafen Tempelhofと、Tegel Airportは、主にウクライナ難民支援のために、空港の機能を停止し、シェルターや物資保管庫として使用されている施設である。体育館6つ分ほどの広さがある部屋には、ドイツ全土から寄付された生活必需品が保管されており、ウクライナとベルリンを行き来するトラックに物資が乗せられていた。自らもこれらの物資運搬を手伝う中で、その物資の多さや、国民から寄せられた暖かいメッセージの数々に胸を打たれた。Tegel Airportは、空港の屋内外がウクライナ難民の居住施設として使われていた。個人や家族のために仕切られた個室や、十分な食事だけでなく、洗濯機や幼稚園などの設備、行政手続きを行える場所、音楽や芸術、言語などを学ぶことのできるセッション、シェルターとベルリン市内を行き来するバスの運行など、高い水準の生活を提供するための工夫がなされていた。

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また、ドイツの入国管理局のような役割をもつAnkunftszentrumでは、緑の多い開放的な空間と、集団で食事をすることもできるスペース、移動式のX線を備える病院など、居住者が安心して滞在できるような場所となっていた。閉鎖的な空間で、入居者の自由はほとんどなく、内部での不審死がたびたび問題となる日本の入管とは対照的な印象を受けた。所内のスタッフも、高圧的な態度をとる日本とは異なり、スタッフと入居者が屋外で談笑する姿も多く見られた。総じて、ドイツの難民支援政策は、日本も見習うべき点が多いと感じた。海外にルーツを持つ人の少なさや、移民・難民受け入れ実績があまりないこと、入国管理のシステムが整備されていないことなどを鑑みると、ドイツに倣った体制を導入するのは難しいが、ドイツの良い部分を取り入れる努力が必要だと感じた。

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KuB Berlinは、ベルリン市内を中心に活動する民間の難民支援団体である。ここでは主に、KuB Berlinが主催する難民向けドイツ語教室の視察と、リーダー・メンバーへのインタビューを行った。言語教室に参加している難民のほとんどは、中東やアフリカ地域出身であった。ウクライナ難民と比較すると、中東・アフリカ地域からの難民は、支援や労働許可などが大幅に制限されており、民間団体に頼らざるを得ないケースが多いという。また、中東・アフリカからの難民は、ドイツ語はもちろんのこと、英語も話せない人が存在し、彼らにとって公的機関や政府サービスの援助に登録することは非常にハードルが高い。難民として正式に認定されず、不法滞在というかたちになり、政府の援助もうけられず路頭に迷った人が、KuBを訪れるというパターンも多いらしい。ドイツ語教室の教室内は、学習者がリラックスして学べるように、軽食や飲料が用意されていたり、学習者同士の交流・会話を積極的に促しながら授業を進めたりする様子がみられた。インタビューの中では、ドイツにおける民間団体の難民支援の実情を知ることができた。上述のとおり、難民のなかには、サービスや援助を受けたくても、さまざまな理由からそれを求めることができない人々がいる。KuBの相談窓口では、そのような人々が、本来享受できるであろう支援や権利へと彼らを結びつける活動をしている。ドイツには同様の支援団体が数多く存在し、政府はそれぞれの団体に支援金を提供している。移住先・避難先の国の文化や言語、行政手続きを理解することができず、困窮やトラブルに発展する、というのは、日本でも多く見られるケースである。官民連携を強化し、ドイツのような支援体系を作ることが必要だと感じた。

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2023年7月 デンマーク オクスボル FLUGT - REFUGEE MUSEUM OF DENMARK

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世界で唯一の「難民ミュージアム」を訪れた。UNHCRの後援のもと運営されているこのミュージアムでは、難民問題そのものや、難民制度に焦点をあてるのではなく、難民一人一人の生活や、それそれが持つ物語にフォーカスした展示を行っていた。現地では、展示の閲覧と併せて、ミュージアムを訪れた人との交流、スタッフへのインタビューやアンケートの実施などを行った。展示内容は、「難民」という私たちが経験したことのないsocial statusについてより深く学べるように、難民の子どもが暮らしていた部屋を再現した展示、戦時中難民が実際に暮らしていた場所の周りを音声ガイドとともに歩けるコース、難民の実際の声を用いて彼らの心境を聞くことが出来るコーナーなど、具体性や再現性を特に重視したものとなっていた。

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FLUGTを訪れたことで、日本において難民に対する理解を促すためには、「難民」という概念そのものについての説明だけでなく、彼らがもつそれぞれのバックグラウンドを知ることのできる機会が必要なんだと気づくことができた。移民によって引き起こされるトラブルや外国人の流入急増といった事象が倒錯し、移民へのヘイトが高まりつつある中で、一個人としての難民を知ることで、遠い国の、自分とはほど遠い環境下で暮らしてきた人々に思いを馳せることができるようになる。

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2023年7月 デンマーク コペンハーゲン 

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Educational Visit Denmarkのコーディネートのもと、コペンハーゲン市内の小学校および学童保育施設を訪問し、多文化共生社会における民主主義的教育について学んだ。デンマークをはじめとする北欧諸国の教育は、幼稚園・保育園や初等教育の段階から、主体性・自由を重視する教育を展開している。多様性、平等な機会、民主主義的態度、非競争的、分析的思考、形式ばらない、ウェルビーイング、個人の自由、異なる能力とニーズといった要素を尊重し、質の高い教育を国民全員が享受できるよう様々なサポートを行っている。例えば、デンマークでは基本的に義務教育十年に加えて大学院までの高等教育が無料で受けられる。多岐にわたる奨学金の提供のほか、幼稚園と小学校の間にpre-school classの設置、3rd gradeからの英語教育と7th gradeからの第二外国語教育、5th gradeからのインターネット教育、宿題の廃止など、先進的かつ多機能的な教育を多く採用しており、児童生徒がより幅広い選択肢をもてるようなカリキュラム設計となっている。特に感銘を受けたのは、「フォルケホイスコーレ」という施設の存在だ。生涯教育という概念を大切にするデンマークでは、本来教育過程を終えた人々(農民など)のために、寄宿学校などの教育の場を提供している。高い幸福度や、他の先進国が挙って参考にする教育制度は、国の政策の賜物であると感じた。

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移民難民にとどまらない外国人に対する偏見や配慮の欠如は、すくなからずその歴史や地理的要因が関係してくる。しかしながら、これを日本だから、欧米とは違うから、という理由であきらめるのではなく、多文化共生の社会に向けてどのような具体案をとれるかが非常に重要になってくる。日本と外国をつなぐ架け橋としての役割を担うのが教育であると自分は考えた。たとえば、FLUGTの展示のように、自分とはバックグラウンドが全く異なる人々の視点に、擬似的に立つことが出来るような機会は、教育を受ける人々の共感性と国際的な視野を大いに涵養する。長く日本の主流である、座学を重んじる授業形式の中では、難民という概念を、客観的・政治的視点からしか見ることができない。移民難民問題にとどまらず、当事者の視点に立つことが出来るようなカリキュラム設計を推進していきたい。無論、日本国内の移民難民に対する支援もより一層強化していかなければならない。このセクターは、私たち学生が積極的に関わり、貢献できる部分である。現在参加している日本語教育ボランティアや、国際支援プログラムへの参加によって、まずは自分の周りから、海外にルーツをもつ人々が日本でより心地よい生活を送れるよう支援していきたいと感じた。外国人のための言語習得支援やコミュニティへの参加促進、日本人のための国際教育や国際交流の機会設置など、双方への教育的アプローチを継続して行うことで、誰もが安心して暮らせる社会へ一歩前進することができる。

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(留学を終えて)

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私にとっての留学の価値とは、「人や環境と対話を交わすこと」であると考える。留学の重要性について語る際に、「本やネットではわからないものを見に行く」というのは、よく言われる話だ。留学を終えた今、日本の中にいては学べないことというのは、私が想像していたものより遥かに大きかったと実感している。留学前、ドイツを訪れる目的は、先進的な難民政策を視察し、それを日本に導入する術を探ることであった。現地では、もちろん、今までは知ることのできなかった政策や、その有効性、メリット・デメリットを実際に知ることができた。しかし、それ以上に大きな学びは、「人や環境との対話」から得られた。例えば、「その国の政策を国民はどう感じているか?」「難民が今必要としているサービスはどのようなものか」「現地にいる人が不安に感じていることは何か?」という情報は、論文などに掲載していることも少なく、現地の人との対話からしか知ることができない。社会学・人道支援において最も尊重されなくてはならない、人々の暮らしや感情を、生で聞くことができるのは、何よりも大きな収穫であると感じた。また、「なぜこの政策がドイツで実現できたのか?」「このシステムがうまくいっていないのはなぜか」「何がどのような問題を引き起こしているのか」「日本で同じことを行うとしたらなにが起こるか」といった疑問は、現地に赴き、現地の人と話し、そして現地で考えることで解決の糸口を見出すことができる。その環境との対話を通して、自分が持つ疑問の本質を理解することができたと考える。ただ見に行くだけでなく、そこでの会話や思考にこそ、留学の価値があると、私は思います。

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